株式会社デューン



 
●製品開発コンセプト
1979年東京モーターショーにコンセプトカーとして登場したパジェロは、1982年にそれまでには存在しなかった、全く新しい乗用車感覚で乗れるクロスカントリーカーとして発売された。幾多のモデルチェンジを繰り返しながら、常に進化し続けたパジェロの歴史は日本のオフロードビークルの歴史そのものであった。今や当たり前になったディーゼルターボ、AT、V6ガソリンエンジン、ワイドボディー等、これら全てはパジェロから始まった機能であり、パリ-ダカールラリーで鍛え上げた信頼性を兼ね備えたパジェロは、まさに4WD界の頂点に君臨する車として長く日本の4WD界をリードし続けたのである。
●パジェロ ジオラマ開発
パジェロの初期計測を始めた時、三菱の几帳面さに少し驚いた。なぜなら左右タイヤの荷重、前後の荷重がほぼ揃っていたのである。これは初期モデルから後継モデルにいたるまで、一貫した三菱の伝統とも言える。このことは、サスペンシヨンを開発する者にとって誠に有り難いことである。特に細かい設定を施したい場合、バネ上荷重が左右で違う時には、バネ定数を微妙に変えていかないと右と左のコーナリングフィールが変わってしまうのである。
おかげでバネ開発はスムーズに進むのであるが、その前に大問題が発生した。フロントトーションバーを太くできないのである。それはトーションバーのセレーション部分(サスペンションアームとシャーシーに接合させるギザギザ部)がトーションバー有効径に対し細すぎて、有効径を太くするとセレーションと有効部のつなぎめ(テーパー部)で折れてしまうのである。ちなみにノーマル有効径26mmに対し、セレーション外径は30mmであり、実際に力を受け持つギザギザの谷底径は28.5mm、その差は僅か2.5mmしかなく、ノーマルですらすでに危険地帯に入っていたのである。なぜならば片側1.25mmでつなげるテーパー部はすでに有効部の応力を上回っているからである。ここがパジェロのウィークポイントといえる。大容量のバネをセットするためにはセレーションを太くしなければならず、そうなるとそれを受けるアンカーとアンカーアームも製作しなければならない。アンカーは鍛造品であり、アンカーアームはブローチ加工とプレスの複合品である。全てに金型が必要になり、その数は10を越え1つの失敗も無く完成したとしても、かなりの開発コストがかかってしまう。道は2つ。開発を中止するか、それとも進むかの選択を迫られたのであった。
●ノーマルの問題点
フロントバネ(トーションバー)のバネ定数が低い上、設定高さもかなり縮み側に位置しており、バンプストッパーとのクリアランスは極端に少ない設定であった。コーナリング時も初期ロールによってバンプストッパーが接触し、車体(ボディー)はバンプストッパーに支持され踏ん張りながら走行することで安定を保っている。しかしその際にギャップなどで大入力を受けると、ハネ上げられて一気にバランスを崩すことになる。直進時でも一寸した凹凸で底突きを発生させることとなった。当然オフロードでは最悪で、底突きの連続とリヤとのマッチング不調のために操縦性と乗り心地は最悪で、高速でのダート走行では安定を保てない。これはフロントバネの容量不足のせいである。また強い減衰力を持つノーマルショックもミスマッチであり、3段階調節のメリハリも弱く、フニャフニャ感の強いソフトに対してハードはただ硬くなるだけであった。
●ジオラマの開発で必要とされた仕様と対策
 ・仕様
1) ボヨンボヨンとしたフロント回りの動きを抑えるためにはトーションバーの強化が必要となる。具体的には直径を3〜4mm大径化させることだ。しかしノーマルのアンカー及びアンカーアームを流用すると、セレーション部の方が細くなってしまい不可能となる。
2) バンプストッパーとのクリアランスを拡大し、ストローク量を確保することで底突きを減らす。ショックの減衰力に見合ったバネ定数を与えることで3段階のメリハリをつける。極端に前下がりなノーマルの車両姿勢を是正することで車両の重量バランスをまとめる。
 ・対策
1) ノーマル部品のアンカー及びアンカーアームの流用が不可能と判明した以上、トーションバーの大径化も不可能になった。そこでデューンは耐力的に見合うアンカー類の強度計算を行い図面を作成し試作に取りかかった。また負荷の大きいフロントアンカーは鍛造品を採用し、ノーマル以上の安全率を確保した。そこには「アフターパーツ」などという甘えは一切無い。同時にリア側アンカーアームもオリジナル品の開発が行われ、トーションバー内部の支持方式では新システムを考案、特許も収得した。これによって初めてトーションバーそのものの大径化が現実のものとなった。コストや手間という工業生産では最も嫌われる要素であっても、それが必要であるならばデューンは積極的に取り入れる。
2) バンプストッパーとのクリアランスを広げるためには、設定高を上げる(トーションバーを一杯まで締め上げる)必要がある。そこでノーマル以上の荷重が掛かっても対応できる大径トーションバーを採用。これでノーマルをはるかに上回る構造上の余裕と高い信頼性を獲得した。バネ定数はフロントで約2倍に、リアは約1.5倍へと高められている。リアコイルについて言えば、ノーマルはロング、ショートともに不等ピッチであったが、ジオラマではロングを等ピッチに、ショートを不等ピッチとした。コイルの不等ピッチ部分は通常(1G状態)では線接触で密着状態にあり、バネとしての機能は果たさない。しかし伸びる際にはバネの役目を果たすので、リフト量を抑えながら伸び足を確保する。ショート車には最適な形状である。また、リバウンド時の残留エネルギーをスムースに処理させることにも都合が良い。対するロング車は等ピッチ化によって、初期動作からカチッとした素直な踏んばりを生み出している。
●ジオラマの特徴
 ・市街地
ノーマルの乗り味を、しっかり感を伴った節度ある乗車フィールへと昇化させる。フワつきの少ない、ビシッと筋の通った安心感が生まれる。一般道では、つなぎ目や小さな凹凸等ハンドルには感じるが、乗員にはほとんど感じさせないしっとりとした乗り味である。工事中等の大きなギャップを伴った道路も全般的に衝撃感が消えている。ノーマルも微妙なギャップでは入力感は少ないが、その実態は「吸収している」というより、単に「鈍くしている」というモノ。速度域が変わるとごまかせなくなる。ノーマル車と違いジオラマは、交差点、コーナーともロールを大幅に減らす。ブレーキング時のノーズダイブや加速時のテールダイブも消える。ギャップを伴った道では直進状態でもユラユラと揺れる点も解消。ショックアブソーバーの3モードのメリハリもジオラマとの組み合わせで、ようやく生かせる。
 ・高速走行、ワインディング
高速になるにつれて路面からの衝撃が重く大きくなるノーマルに対して、ジオラマではバネが素早く吸収、高級サルーン的なしっとりとした乗り心地を演出する。高速コーナーでのロール量も半減。また一旦決まったロールはビクともせず、さらにハンドルを切り込んでも忠実に応答する大きなコーナリングパワーを発生する。最大ロール角に達する時間が短く角度も浅いので、車線変更やコーナー出口での揺り返しはほぼ皆無。このためS字コーナーの切り返しでもモーメントを引きずることなく、軽快にハンドルを切り替えしていける。もちろん車両姿勢は安定志向であり、パワーオンと共に沈むように4輪に圧をかけながら旋回し、高速域からのフルブレーキでもノーズダイブはごく僅かである。この安定性が限界付近でも失われない点がジオラマの美点であり特徴となる。ノーマル車が腰砕けになっている状況でも、ジオラマでは安定しているので余裕を持って対処できる。
これらの特性は実は低速域でも体験できるものです。急ハンドルを切ったり、急ブレーキをかけたり、あるいは両方を同時に行えば、ノーマル車は大きく姿勢を乱します。ここに限界特性が表れています。そんな時にもキチンと操作に答えるサスペンションこそがジオラマです。
 ・オフロード(特にダートステージ)
ギャップの吸収性が極めて低いノーマルは、少しの凹凸ですぐに底突きを起こして操縦性が失われ、スポーツ性や乗り心地はゼロに近い。「オフロードスポーツ走行=クルマの破壊」というような恐怖感を覚える方程式ができあがる。対してジオラマでは乗員やクルマに対するストレスが消失していることを実感できる。ノーマルだとハネ上がるようなギャップやジャンピングスポットでもタイヤだけが動いて衝撃を吸収していく。乗員にはまるでショックを感じさせない。また高速でジャンピングスポットに進入し、1mくらいジャンプしたとしてもフワリと猫のように着地し、その瞬間フルブレーキを踏んでも姿勢も乱さず強力に止まる。この感覚はまるでTVゲームのようだ。ソフトな吸収性は、接地性、コントロール性と運動性の全てを向上させる。このノーマルとは比較にならない圧倒的なポテンシャルはクルマのダメージも解消し、あらゆるステージで安心して走れるパジェロを新たに作り出したとも言えるほどで、その変化は実に驚異的だ。3cmのリフト量を与えながら、あらゆる運動性能も確実に向上させた走行性能。そして乗り心地はしなやかにまとめ上げている。なによりも特筆すべきことは、その衝撃吸収性でクラスを超えた快適性と安全性を得たうえ、クルマのロングライフ化まで手に入る。手間とコストをかけて実行されたトーションバーの大径化のメリットが最大限に活かされたサスペンションセッティング。それがパジェロを完璧にパッケージングしなおしたジオラマデバイスサスペンション。これ以上のバランスポイントはほかにない。
●パジェロ ジオラマワールド
1年以上の開発期間を経て誕生したジオラマパジェロは、その装着によって同じパジェロのポテンシャルを劇的に向上させる。バンプストッパーとのクリアランス及びストローク確保のため、ほぼ伸び側一杯にまで締め上げられるトーションバーはそれでも余裕と言えるマージンを持つうえ、リアコイルは遊びのない瞬発力を備えた。これで常に路面とのコンタクトを取り続けながら走ることが可能となり、またギャップ等のあらゆる状況変化にも一切のバランスを崩すことなく、足下だけが対応して行く安心の走りが実現した。さらに、極限まで減らされたロールは、緊急時の急激な車体操作だけでなく、ワインディングなどでも同乗者がストレスから解放されることをも意味している。基本的には硬めなこの四肢は、しかし硬いだけではない。デューン独自の「N.V.C.S(固有振動制御システム)」が採用された前後のバネの組み合わせは、柔らかな乗り心地をも両立しており、まさに特筆すべきサスペンションに仕上がっている。
ショート車とロング車ではその走りに明確なキャラクターの違いも与えてある。ショート(フロント4cm UPリア変化無し)はキビキビと小気味良いフットワークにシャープな切れ味を伴い、カモシカのような瞬発力でよりスポーティーに変身する。ロング(フロント3cm UP/リア3cm UP)は、ゆったりとした安心感ある走りを基調としながら、攻め込んでいけば決して安定性を失うことなくしなやかにどこまでも応えて行く。終始マイルドでスムースな味わい。いずれのパジェロも粗雑さが一切なく、全ての部分が優雅にコントロールされた走りが堪能できる。素材としてシャーシーの強さ等で優秀なパジェロを活かし切った逸品といえる。
●パジェロ車高の設定について
オフロード走行を前提として作られた車としてパジェロを見た時、ノーマルの車高は低すぎると考える。それは一寸した河原に降りようとした時、頭くらいの石があると躊躇してしまう現在の設定では乗用車と変わらないからだ。だからといってむやみに車高を上げると操縦性や耐久性に重大な欠陥がうまれてしまう。Duneではこの特性が保て、なおかつ最大限に高くできる範囲を緻密なテストによって決定した。これ以上車高を上げるとプロペラシャフトのユニバーサルジョイントから振動が発生しドライブシャフトブーツが破損するのである。
●N.V.C.S(固有振動制御システム)について
ノーマルよりも堅いバネなのに何故ジオラマはノーマルよりもショックがなく乗り心地が良いのだろう。自動車の知識が深い人ほどジオラマに疑問を持たれるでしょう。専門的になりますが、簡単に説明をします。
自動車に装着された4つのバネは、1本だけでは動けません。1本が動くと残りの3本も連動して動かされます。自動車のコーナーを押し下げてやると、対角線のコーナーは逆に上がってしまいます。このようにバネはシャーシーを介して荷重を分け合い連動しているのです。
一方バネには固有振動という特性があります。バネを押し縮めてパッと放すと上下に振動しますが、1秒間に何回振動するかをそのバネの固有振動数と呼びます。仮に前のタイヤが受けた衝撃がシャーシーを伝わり後ろのバネに入力された時、前後のバネが共振するとショックは増幅され乗り心地は悪くなります。反対に互いのバネが振動を相殺し打ち消すような組み合わせをすれば、大きな衝撃もバネが吸収してしまい快適な乗り心地が作れ、強いバネのおかげでロールを減らせます。ただ振動要素はバネ以外にも多数存在し、シャーシー各アーム類ブッシュ等が複合された振動となって現れます。それらの要素がなければ計算でベストなバネを短時間作れるのですが、数多く作った試作の中から探していく手間と時間のかかる作業です。実際の開発ではこれ以外に、「操縦性」「ダートでの吸収性」「前席から後席までの乗り心地」「耐久性」「安全性」など、各項目にわたって厳しくテストが繰り返されて、高性能で人の感性に合う物だけが商品化されるのです。
以上のようにジオラマを装着することにより、パジェロを劇的に変化させることが可能になります。ノーマルでは辛かった長距離のドライブまた積雪路等の悪条件であっても、ジオラマ装着車であれば後席の乗員までが疲れもなく快適にロングツーリングができるようになります。また飛躍的に向上したドライバビリティーは突然の変化にも余裕を持って対処でき、安全性をも高めます。美しく仕上げられたその外観からは想像もできないタフさも合わせ持つジオラマは、酷使すればするほど、その懐の深さに魅了されることでしょう。世界中で唯一永久保証を付けたジオラマデバイスサスペンション。確かな品質の証です。
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